同窓会
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 三人の老人は黄昏に身を任せていた。
 墓石の代わりに立ち並ぶマンションやその周りの家々が黄金色に染まっている。
 夕暮れ時はセンチメンタルだ。
 三人は穏やかな笑顔で沈みゆくぼやけた夕日を眺めている。暗い青と橙色に曖昧に分離された空は幻想的で、その中を綿毛のような雲が悠々と泳いでいる。あの雲は、自分たちに似ている。自分たちもやがてはあの雲のように夜の闇の中に溶けてゆくのだろう。
 なんだか、眠くなってきた。
「初恋を思い出しませんか?」とハカセがぽつりと言う。
 老人と杉山がその言葉に促されて古い記憶を辿る。朧気に一人の少女の笑顔が見えてくる。おさげが似合う、色白の、可愛らしい少女の姿が柔らかな霧の向こうからこちらのほうへ近づいてくる。少女は老人たちに手を振る。
「静子さん……」三人が声を揃える。
 静子さんが呼びかけに応えてより一層明るい顔で微笑む。
「可愛かった」
「優しくて」
「夢のようで」
 三人はそれぞれの記憶の中で描かれる静子さんに見惚れ、また再び恋をしていた。
 静子さんでいっぱいになる。
 やがて、静子さんとの思い出が、音を立てながら今にも止まってしまいそうなおんぼろ映写機によって映し出される。次々と映し出される。フィルムはかたかたと揺れながら、ところどころに傷が入りながら、それでも老人たちにとっては魅力的で美しかった。思い出の映画がスクリーンいっぱいに映し出される。観客は一人しかいない。老人たちはそれぞれの映画館で楽しそうに、嬉しそうに、心地良さそうに自分たちの映画を鑑賞している。少女に出会い、少女に恋をし、少女と日々を過ごし、ときめき、思い悩み、笑い、泣いて、そして少女と別れるまで、その物語に目を潤ませる。
「静子さん、今頃どうしているんだろう」老人が呟く。それを聞いたハカセが悲しげな目で老人と杉山を見てから、逡巡し、やがて意を決して口を開く。
「静子さんは……二年前に交通事故で……」
 その後の言葉は誰の耳にも届かなかった。
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