同窓会
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「またいつかお会いしましょう」
 そんな言葉が交わされて三人の老人は別々の道を歩き出した。たぶん、もう二度と会うことはできないだろう。ほんのわずかな時間を共有しただけだったが、別れ難く、二人の顔を思い出すと寂しくなる。もっと一緒にいたかった。
 今日一日、何年分もの時間を過ごしたような気がする。
 とてもいい一日だった。楽しかった。
 あの二人も、自分と同じような日常に帰るのだろうか。坂道を下りながら老人は考える。また、いつもの何もない日常に、寂しくて退屈で悲しい日常にあの二人も帰るのだろうか。
 あそこで別れることなく、三人で旅にでも出ればよかった。毎日違う土地で、大好きな朝日で目を覚まし、昼間はぶらりと散歩に出てあちこちを歩き回り、踊ってもいい、歌ってもいい、オレンジジュースを飲んでもいい、羊羹や饅頭をほおばりながら笑うのもいい。そして夕暮れが迫ると白黒の古ぼけたフィルムがかたかたと揺れながら、音を立てながら回りだし、それぞれの映画を楽しむ。夜になれば温かくて美味い、その土地ごとの料理と晩酌でいい気分になる。布団を並べても、いつまでも眠らずに枕投げをして遊んでもいいし、夢を語ってもいい。そしてまた新しい朝日が昇ってきて、知らない土地へ出かける。
 杉山は肌身離さず松ちゃんと西やんを連れて歩き回るだろう。ハカセはその土地ごとで薀蓄を披露してくれるかもしれない。
「あらあ、お帰り、お土産はなんだい?」アロハな声が聞こえてくる。
 そこを過ぎれば家が見えてくる。昔からそこにある家。ずっと暮らしてきた自分の家が見えてくる。夕飯時を過ぎてしまったので、朝と同じ冷えた飯とおかずが黙って帰りを待っているのだろう。
 この道を渡ればもう家はすぐそこだ。車の往来が途切れるのをじっと待っている。
「あなた、お帰りなさい」
 ふと、妻の声がした。道の向こうに、摘んできたばかりの花を抱えた妻の姿が見える。いつもと変わらない優しい佇まいで老人の帰りを待っている。
「ただいま、今帰ったよ」
 妻の優しい声に応えて老人は手を振りながら歩き出した。妻が待っている。老人は目を細めて妻の姿を見つめる。
「あなた、お帰りなさい」
「ただいま、今帰ったよ」
 ふいに大きく鈍い音が響いて、その響きの中で体がふわりと宙に舞った。妻の姿が、見えない。自分は鳥になったのだろうか、旅に出かけるために。より美しい朝日を見るために。より美しく染まる夕焼けの中に身を預けるために。あの二人も鳥になっているのだろうか。
 忘れたものが返ってくるように痛みが広がってくる。
 ハカセ、杉山さん、松ちゃん、西やん、静子さん、みんな今頃どうしているのだろうか。
 ハカセは踊っているかもしれない。杉山さんは松ちゃんと西やんと酒を酌み交わしているかもしれない。静子さんはおさげを編んでいるかもしれない。
「その花の名前は、何て言うんだい?」老人は妻に問いかける。
「この花はね」
 妻の答えが返ってくる前に、目の前が完全に暗くなった。
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