同窓会
spacer
 目を覚ますとすぐそこに、四つの目があった。
「気づいたようですね」とハカセが言うと、杉山が無言で頷く。
「あの、近いです」老人の顔を覗き込む二人の男の顔が、その息遣いで視界が曇りそうなほど目の前にあった。
「いや、こりゃ失敬」
「何も手篭めにしようというわけではないんです」と二人の男が離れると、老人はゆっくりと体を起こした。そしてやっと開けた視界であたりを見ると、そこが保健室らしいということが分かってきた。くすんで薄暗い教室とは違い、白を基調とした内装と薬棚、部屋を仕切るカーテンと自分が眠っていたらしいベッド、その潔癖な明るさに目がくらみ、戸惑い思考を鈍らせる。
 まだ少し、ぼんやりとしている。
 どうやら自分はここで眠っていたらしい。寝起きで自分の状況がうまく判断できない。今に至るまでの記憶がすっぽり抜けていて、そもそもどこから抜けているのかさえはっきりしない。
「大丈夫ですか?ここがどこだか分かりますか?」というハカセの声に無言で頷く。
「いやあ驚きましたよ、人の自殺を止めに入った人が先に死んでしまうんじゃ冗談がきつすぎますよ、でも無事でほんとうによかった」ハカセの言葉を空ろに聞いていて、目が覚めたのは実は気のせいで、ほんとうは自分は死んでしまったのか、と思いかけたのも束の間、
「重ね重ね、ご迷惑をおかけして大変申し訳ないっ」と杉山が頭を下げる。勢いあまってベッドの手すりに頭を打ち付ける。その鈍い音で老人は我に返る。ああ、そうだこの音だ。
 と、老人は八つの目に見られていることに気づく。ハカセと杉山と、二つの遺影の男たち。ふいにこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
「教室に、戻りませんか」
「いや、ここで安静にしていたほうがいいでしょう」と杉山が心配してくれるのはありがたいのだが、病院を連想させるこの潔癖で無機質な白い部屋と、二つの遺影の男たちの無言の笑顔に胸が塞がれ、苦しくなるのだ。やがてこの無機質な明るさと静けさに部屋全体が覆われ、輪郭や境が失われて、ただぼんやりとした意識すらもなくなって自分が消えていってしまうような気がしてくる。そしてただ残るのは、黒い縁取りの中で無言で笑う一人の老人。そこにもやはり色はない。
「戻りましょう、わたしは大丈夫ですから、心配ないですから戻りましょう」と老人は足元はふらつきながらも、ベッドから降りると力強くハカセと杉山の背中を押して保健室を出た。
spacer
backnextindex
spacer
(C)office cQ all rights reserved.