同窓会
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 中央のテーブルには、見覚えはあるけど名前のよく分からない花を一輪挿した花瓶が、申し訳程度に置かれている。
 ああ、校舎に入る前の花壇に咲いていた花かもしれない。
 妻は花を見るのも育てるのも好きで、部屋の中にはいつの季節もそれぞれ顔の違う花が飾ってあったし、庭で花と一緒に陽の光を浴びては、よく笑っていたことをふと思い出す。
 だが、花の顔は何一つ思い出せない。
 始めのうちは、これはどんな色でどんな香りがするとか、ひとつひとつ紹介してくれていたのだが、あまりにも興味を示さない夫に呆れ果てたのか、いつからか何も言わなくなった。
 花を愛し笑う妻が、老人は好きだった。それだけでよかったのだ。
 妻が亡くなってからは老人はほとんど花を見かけることも、それまで以上に気にかけることもなくなった。
 老人は花の名前をほとんど知らない。
 窓際の席に座って外を眺める。
「誰かいますか?」とハカセに声をかけられるも、どう答えていいのか分からない。窓から見える校庭には子供の姿はない。
「努力」の文字の下から動かないハカセを見ると、訊いてはみたものの、それほど興味はないのだろう。
「いやっ」と老人が首を振ると、そこでその話は終わってしまった。そしてなんだか妙な後ろめたさを感じて、老人は視線をはずした。
 広い教室の中には老人とハカセの二人しかいない。
 昔とそれほど教室の造りに違いはないはずなのだが、こんなにも落ち着かないのはどうしてだろう。子供がいないうえに机を中央に寄せ集めたせいか、大人になったはずなのに、思っていたよりも教室が広く感じられる。
 窓際でカーテンが波打ち、頼りない椅子は所在なげで、まだらに白く汚れた黒板は何も言わず、天井の蛍光灯は灯りをともさず、傷だらけの床は鈍く陽にさらされている。
 そして子供たちの「努力」が風に吹かれて教室内に音を響かせる。
 あまりの空気の重さに耐えかねた老人は、間をもたせるために、テーブルの上に用意されている毒々しい色のオレンジジュースを手に取った。何がどう100パーセントで、それが味にどう反映されているのか分からないオレンジジュースが口の中にまとわりつく。
「おいしいですか?」とハカセに声をかけられ、今度は少し会話をもたせようと、老人は嘘をつく。
「ええ、おいしいですよ」
「そうですか」
「飲みます?」糸口をつかめたかもしれないと思った老人は攻勢をかけてみる。
「いりません」
 老人は紙コップの中のオレンジジュースをぐっと飲み干すと、ひとつため息をついた。
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