同窓会
spacer
 たどり着いた学校に、昔の面影はなかった。
 二宮金次郎はもはやいなかったし、木造の校舎もコンクリートに変わっていた。学校の脇の墓地であったはずの土地も、墓石の代わりにマンションが建っていた。あの土の下で眠っていた人たちはどこに行ってしまったのだろうか。
 よく整備された広い校庭を抜けて校舎に入る。ずいぶん立派なものだ。自前のスリッパに履き替えて中を歩いてみるが、当時とは校舎の中の構造まで変わってしまっているので、どこに何の部屋があるのかは当然、皆目見当もつかない。
 案内状に指定されている教室を探してみる。子供がいない、静まり返った学校の中は薄気味が悪い。教室のあちこちに子供たちの気配の残り香を感じていてもたってもいられなくなる。ぺたぺたと響くスリッパの音に追われながら廊下を歩く。
「3年2組」と掲げてある教室の扉に「同窓会会場」の張り紙がしてある。
 教室に入る。黒板には「同窓会会場」と書かれているだけで特別なんの飾りもない。部屋の中央には机を並べただけの長テーブルにペットボトルや紙コップ、それに柿の種などのつまみ程度のお菓子が封も開けずに置かれている。
「こんにちは」
ふいに声をかけられ、驚いてそっちのほうを見ると、部屋の後ろの壁に飾られた、子供たちの複数の「努力」の文字の下に老人同様に老いた男が一人座っていた。
 声をかけたものの、その相手が誰かを思い出せずにそれからしばらく動きがなかった。声をかけられた老人のほうも、瞬時には思い出せず、とりあえず相手の動きを待つことにした。
 それからしばらく気まずい沈黙があった後、
「木村さん……」と小声で男が確かめるように老人の名前を呼んだ。
「はい、お久しぶりです……」と答えたものの、残念ながらこちらはいっこうに思い出すあてがない。すると相手のほうは名前が当たって気をよくしたのか、もしくはこちらの戸惑いを察したのか自ら名を名乗りだした。
「花園です。花園司。電器屋のせがれの。みんなからは『ハカセ』というあだ名で呼ばれていました」
「あぁあ、花園さん、ハカセ……」と頷いて思い出したそぶりをしてみたものの、いまいちはっきりしない。その程度のあだ名はどこでも一人くらいはいるものだし、誰がどのハカセかうまく線でつなぐことができない。
「昔のように『ハカセ』と呼んでください」
ハカセの笑顔が老人の後ろめたさにいっそう拍車をかける。
spacer
backnextindex
spacer
(C)office cQ all rights reserved.