河童の進路
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今日、久しぶりに新宿で河童と会ってきた。
卒業後の進路について相談したいことがあると、
先日電話をもらったのだ。

久しぶりに会った河童は、幾分やつれたようで、
思っていたよりもずいぶんと疲れているようだった。
河童とは高校のころからの付き合いなのだが、
高校時代ラグビーをやっていて、
河童の身分でありながら「不死鳥」と呼ばれていた
あのころの彼とは思えないくらい疲弊しているようで、
相当思い悩んでいるであろうことが受けて取れた。

河童の実家は昔から印刷所を営んでいて、
長男である河童はもちろん
家業を継ぐことを暗黙の了解のうちに約束されていた。
しかし、河童には高校のころから、ある夢があった。
スーパーの店長になることだった。
河童はすでに面接も受けており、内定ももらったというのだ。
しかし、両親にそのことはまだ打ち明けていなかった。
「どうすればいいだろうか」
河童は人一倍親思いの青年で、
できることなら親に心配させたくないし、
悲しませることなど論外だった。
その両親のために自分ができる一番の親孝行は
店を継いで、立派な印刷工になることだった。
しかし、どうしてもそれを選択することができないのだという。
だが、わたしに相談されたところで、
そんなこと知ったこっちゃないし、どうでもいいことである。
その旨河童に伝えると、
涙ぐみながら席を立ち、何も言わずに帰っていった。
その後ろ姿があまりに切なかったことは
もはや言うまでもない。
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