| 女友だち、帰宅する |
| こんな夢を見た。 女友だちが家に来た。なりゆきでわたしの家族と食事をすることになった。わたしは彼女に好意を寄せているのだが、その想いは彼女には伝えておらず、もちろん家族の誰も知らない。女友だちとわたしの家族とはこの日が初対面なので、とりあえず終始笑顔は絶えないけどもぎこちない時間が続く。女友だちと家族は不快な事態を避けるために、お互い探り合うように言葉を選んで会話を続けている。わたしはそうと知ってはいたが、この後のふたりだけの時間をどう過ごすかで頭がいっぱいで、両者を取り持つだけの余裕がなかった。 そんな膠着状態のような食事が終わり、さてこれからどうしようかと誘うが、とりあえず今日は食事だけということになり、女友だちは帰り支度を始めた。すっかり意気消沈したわたしは少しでも長く一緒にいるために、せめて家まで送らせてほしいと申し出る。女友だちは食事中に家族に見せていたような笑顔でそれを受け入れた。 家を出てからしばらくして、わたしと女友だちの後ろに小さな女の子がふたりいることに気づく。双子のように同じ背丈で同じ顔で同じ服装をした小さなふたりの女の子は、女友だちを見送るためについてきたらしい。気をよくした女友だちが目尻にほくろがあるほうの小さな女の子に手を差し出すと、女の子は発作を起こしたように嫌がり、その感情は双子のようなもうひとりにも伝染し、小さなふたりの女の子は同時に泣き出してしまった。すると小さなふたりの女の子の母親がどこからともなくすっと現れ、困惑するわたしと女友だちに悪気はないのだと弁解し、わたしたちの反応を待つこともないまま素早く子どもらをつれて帰って行った。あの親子は顔見知りなのと女友だちに聞くと、知らないと答える。 それからまたしばらく歩いていると、すれ違う人がみなわたしに「今年の巨人は弱いね」と声をかけてくる。わたしは野球にはまったく関心がないのでそのたびに返答に困る。声をかけてきた人たちもはなから期待はしていないようで、わたしの返答を待つことなく立ち去っていく。そもそも何故わたしにばかりそんな声をかけてくるのだろうと不思議がっていると、あなたが着ているそのシャツのせいじゃないのと女友だちに指摘された。わたしはケンタウロスの絵がプリントされたシャツを着ていた。 わたしと女友だちが信号待ちをしていると、同じように待っている女性が三人いてその会話が聞こえてきた。 「わたしが前に付き合っていた彼は、キスまでしかしていなかったころのことを話したがらなかった」とひとりがそう寂しそうに告白すると、もうひとりが「男はね、キスより先のことしか語りたがらないんだよ」と応える。もうひとりはなるほどと頷きながらメモを取っていた。女友だちにもその会話は聞こえていたはずだが、特に何の反応も示さない。あなたもそうなのと聞かれたらわたしはどう答えただろうか。 やっとふたりきりになり、さて何を話そうと考えを巡らせていたら、隣にいた女友だちがふいに立ち止まった。振り向いたわたしにいたずらっぽく笑ったと思うと、女友だちは急に駆け出した。その足はとにかく速く、走れば走るほど重くなるわたしの足では見失いそうなほどだった。わたしとの距離は開いていくばかり。これはいったい何の仕打ちなのだろう。 ある一軒のアパートまで来ると、女友だちはその階段もためらうことなく一気に駆け上がった。どの部屋に帰るのかと思って見ていると、女友だちは駆け上がった勢いのままである一室のドアを開ける。しかしそこに入ることなく、開けっ放しにしたままで元来た階段を駆け降りてきた。どうやら他人の部屋をいたずらで開けただけらしく、住人の怒声が聞こえてくる。女友だちは怒声にかまうことなく、またわたしのこともほったらかしにしたまま逃げていった。 怒声が階段を降りてくるのが聞こえる。共犯者とされる面倒が嫌でわたしも逃げ出そうとするが、階下の部屋から音が聞こえ、左腕に痛みを感じ、抵抗する間もなく音のしたほうに引きずり込まれてしまった。部屋の明るさに目が慣れると、目の前に仁王立ちのおじさんが見えた。特に怒っている様子もなく、淡々とした調子で居間のほうに案内された。 おじさんは女友だちのことを知っていた。おじさんと女友だちがどういう関係なのかについては語ろうとしなかったが、わたしにどうしても伝えておきたいことがあるらしい。そこで、わたしは女友だちの周辺でトラック事故が相次いで発生していたことを知らされた。いずれも原因不明として処理されているらしいが、おじさんによると女友だちとトラック事故には因果関係があるという。しかしそこも肝心なところになると教えてくれようとしない。わたしは女友だちに何かしらトラウマのようなものがあり、トラック事故に関わっているのではないかと疑い始める。 おじさんに煎れてもらったお茶を飲み干したところで、遠くから軋むタイヤの音が聞こえた気がした。そのとき女友だちの笑顔も浮かんだが、その感情は読み取れなかった。 |
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