世界のけむり
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ある日、見知らぬおじいさんと町を歩いていると、
信号の向こうから赤い風船を持った赤い女の子が歩いてくるのが見えた。
僕とおじいさんは立ち止まって赤い女の子がこちらへやってくるのを待った。
空では重たそうな雲が僕らを見下ろしていた。
ふと甘いにおいがして振り向くと、
ポップコーン売りのおばさんが所在なげに僕らを見つめていた。
話を聞いてみると、昔はサーカス団にいて空中ブランコに乗っていたそうだ。
でもそうは見えないほどおばさんの体はパンパンで、
あそこのビルに浮くアドバルーンのようだった。
気がつくと赤い女の子はもうすぐそこで、
僕の黒くて軽いパジャマの裾を力のない手でそっとつかんでいる。
赤い風船はゆらゆら揺れている。
おじいさんが咳払いする。
僕ら四人はまた町を歩きだした。
町行く人々がパンパンのアドバルーンおばさんの甘いにおいに振り向く。
アドバルーンおばさんのポップコーンは次々にはじけて消えた。
そのたびに僕らのおなかはいっぱいになる。
ゆらゆらの赤い風船が気のせいか、次第にふくれていく。
赤い女の子はふわふわと歩いている。
赤い女の子の靴はふわふわとただよっている。
それを見ていたおじいさんがもうひとつ咳払いをする。
おじいさんの体はひょろひょろとふらふらしている。
かすかにともった町の音に包まれて僕らは目的もなく歩いていた。
次第に大きくふくれていく赤い風船が
しゃぼん玉のように僕らを包んでまた別の町へと運んでくれる。
そこでまた僕らは町を歩いている。
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