橋爪さんの奥さん |
そば 橋爪さんの奥さんは、そう言って奥の扉を音もたてずになまめかしい動作で閉じた。その奥さんの指先に僕は不穏な空気を感じた。確かに山室さんの言うとおりかもしれない。 山室さんのあののっぺりとした横顔を思い出す。 山室さんはいつもうどんの中に一本そばの破片が混ざっているんだと僕に熱弁していた。そのうどんの中に紛れているそばの味とはどんなものだったのだろう。 山室さんがあんなことになった今となっては、もう知るすべもない。 「片桐さん、お風呂はどうなさいます?」 どきっとした。奥さんはなぜ急にそんなことを僕に聞いてきたのだろうか。僕はまだ夕飯もすませていないし、第一、ぱじゃまを用意していなかった。そんな僕にどうして、どうして奥さんは……。 第一問 『山室さんがあんなことになった〜』のあんなこととは一体どんなことであるか。 第二問 橋爪さんの奥さんの主人は今、どこで何をしているのか。本文中の言葉を用いて二十五文字以内で述べよ。 |
納豆 山室さんの帰りを待っている間に、後輩の杉下に手紙を書いていた。 彼は僕が中学時代に在籍していた卓球部の後輩で、卒業した後もなんだかずるずると交際を続けていた。 半年に一度呑みに行くか行かないかの付き合いなのに、どうも僕は彼がずっとそばにいて監視されているような気がしてならない。 杉下のあのぬらりとしたあごのラインを思い出す。杉下に最後に会ったのは三ヶ月前の満月の日だった。 「片桐さんは納豆派ですか?」 どきっとした。杉下はなぜ急にそんなことを僕に聞いてきたのだろうか。僕はまだ夕飯もすませていないし、第一、納豆以外に何の派閥があるというのだろうか。僕は無理にでも納豆派に所属する以外に手はないのだろうか……。 第一問 『なんだかずるずると〜』のずるずるに代わる適当な擬態語を考えよ。 第二問 杉下は何派に所属しているか。またその理由を本文中の言葉を用いて二十五文字以内で述べよ。 |
あんまん 「と橋詰さんは肉まん、杉下はピザまんだな。あんまん食べたい人はいないのか?じゃあ、あんまんは俺だけか」最後だけ寂しそうにつぶやくと、山室さんは小雨が降る中、コンビニへ買い物にでかけた。 そのとき、部屋にいた僕たちは誰も声に出して「いってらっしゃい」と言えなかった。 一人であんまんを食べるその切ない後ろ姿を思うと、なぜ自分も「あんまんが食べたい」と嘘でもそう言えなかったのか、それぞれが自分を責めていたのだ。 山室さんがふわりと立ちあがって玄関を出るまでの姿が、残像としてこの部屋に焼き付いている。 「あんまんは中身が黒いからかな?」 どきっとした。山室さんの残像はなぜ急にそんなことを僕に聞いてきたのだろうか。僕はまだ夕飯もすませていないし、第一、ピンク色のあんまんがあったとしたらそちらのほうがもっと手が出せなかったに違いない。赤ければ食べたのだろうか……。 第一問 『と橋詰さんは肉まん』の「と」とは一体誰のことであるか。 第二問 山室さんがあんまんを選んだ動機について、本文中の言葉を用いて二十五文字以内で感想を述べよ。 |
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