わたしは宇宙人
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 こんな夢を見た。
 わたしはみんなから、君は宇宙人じゃないのか、とよく言われてるんで、自分でもわたしは宇宙人なのかな、と思っています。
 どこがどう宇宙人なのか実は自分でもよくわかってないんです。
 そういう記憶があるかって言えばあるような気もするし、ないような気もするし。物心ついたときには地球にいましたから、それより前に自分がどこにいたのか、どうやって地球に来たのか、そのへんもよくわからないんです。長いこと地球人として、というかどこの星の人間かなんて意識しないで暮らしてきましたから、宇宙人としての記憶はすっかり風化してしまったようなんです。
 地球に来る宇宙人にはそれぞれ何らかの使命があるものだ、と偉い人に言われたんですが、それまで、というかそれからも、自分が何のために地球に来たのかを意識することなく、ただぼんやりと生きてきました。わたしには怪獣と戦うほどの正義感もなければ、この星を侵略しようなんて大それた野望もありません。退屈だな、と思うことはあっても、リスクを負ってまで何かをしようとは思いません。そのへんはありふれた地球人とそれほど変わらない気がします。
 宇宙人じゃないのか、と言われるようになってから、自分でもそう思うようになり、せめて宇宙人らしいふるまいを、と意識してみたこともあるんですが、うまくいかないんですよね。宇宙人なのに。文学や映画を参考にしてみようとも思ったんですが、よく考えてみればそれは地球人の創作であって本当の姿ではないんですよね。本当の宇宙人がそういうものに頼るのも本末転倒な気がして、それからはありのままの自分でいようと決めたんですが、そうすると地球での記憶や生活習慣しかありませんから、それではどうしても宇宙人になりきれないわけです。もうどうしてよいものやらわからなくなってしまい、そこはもうあまりこだわらずに地球人らしくてもいいのかな、と今ではもう諦めています。地球人らしい宇宙人がいてもいいじゃありませんか。いくら地球人らしくても、わたしが宇宙人であることは揺るがないわけですから。
 ただ、やっぱり自分は宇宙人なんだ、と確信できるものがほしいんですよね。
 記憶のほうがあやふやで心許ないので、何かもっとわかりやすく手がかりとなるものはないかしら、誰が見てもわかる、身体的な特徴として宇宙人らしいところはないかなって思っていたら、それがあるんですよ。
 わたしね、お腹に三つ穴が開いてるんですよ。これ絶対宇宙人ですよね。でね、そのうちひとつから最近になって何か液体が出てるんですよ。いやもう絶対宇宙人じゃないですか。みんなに聞いてみたんですけど、地球人にもお腹に穴があることはあるんだけど、三つもないらしいんですよね。おまけに何かしらの液体が出ないこともないんだけど、お腹の穴からは出ないらしいんですよ。だからお腹に三つも穴があって、何かしらの液体が出てきたってことは、それはすなわち、わたしはやっぱりまぎれもない宇宙人だと思うんですよね。
 でも困るのが、宇宙人であることは確かで、それはわかったんだけど、その穴が何のための穴で、その液体がいったい何のために出ているのかがわからないんですよ。
 自分の意志とは関係なくだらだらと液体が出てるのって怖いし気持ち悪いし止めたいんですけど、止め方がわからないんですよ。宇宙人なのに。止めたら死ぬかもしれないし出っぱなしでも死ぬかもしれないし、これどうしたらいいのかまったくわからないんですよ。生物に詳しそうな学者にも聞いてみたんですけど、宇宙人の君がいちばんよく知っているはずだの一点張りで、君の体のことは君がよくわかっている、という学者や医者の説明としてはいちばん卑怯な言い回しで軽くあしらわれてしまい、何も有益な情報は得られませんでした。学者にだってわからないことがあるのはわたしも承知しているつもりです、わたしが宇宙人なのに宇宙人のことをよくわかってないわけですから。
 わたし宇宙人じゃないんですかね。
 でもお腹に三つ穴が開いてるんですよ。いやもうどっちなんですかねえ。
 何もしないのもあれなんで、試しに液体が出ていない穴を指で押さえてみたんですよ。止まらないんですよ。もうひとつ穴が余ってますから、今度はそっち塞いだんですよ。液体が出る穴が変わったんですよ。仕組みがわからないんですよ。
 宇宙人、意味わかんないです。
 いやわたしが宇宙人なんですけど。
 いやでもやっぱり宇宙人じゃないんですかね。
 だとしたらこの穴、何ですかね。
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