家電の男、裸の女
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 こんな夢を見た。
 女の子が二人で歩いていると、後ろからつけてくる男がいる、男は買ったばかりらしい家電製品を抱えている。
 その様子をしばらく見ていて不審に思ったわたしが男に声をかけると、男はセールスマンとして営業で回っていて、女の子にも仕事で声を掛けるつもりだったと言う。確かに彼の胸にはそれらしい社員バッヂが見える。
 それにしてはずいぶん長い間歩いていて一言も声をかけることがないのはおかしいと問い詰めると、内気な性格でなかなかうまくいかないという。何を売りつけようとしていたかも恥ずかしがって答えられない。ただ、胸に抱えている家電製品が売り物ではなく個人的な買い物であることだけは白状した。
 話しているうちにこの男に興味を持ったわたしが半分冗談のつもりで、今度お家に遊びに行くと言うと、ではどうぞこちらです、と今まで立ち話をしていた目の前の門を開いて入るように促された。そこが男の家だったらしく中に案内される。
 わたしはますますこの状況が面白くなってきて、男がさっきまでつけていた女の子たちを呼んで、一緒に男の家に上がることにした。
「井上」という表札のある門から玄関までの間、徹子の部屋のテーマソングを四人で口ずさむ。
 案内された応接間は、昭和のころに撮られた写真で見かけるような洋風の内装で、何式かわからないアンティークな装飾があちこちに施されている。おそらくは男よりも何代も前からある家なのだろう。ところどころ色あせた壁紙や絨毯やくすんだ柱や天井からも過ぎた時間を感じる。そしてやや過剰に見える装飾や模様から、そこそこお金を持て余した日本人のつまらない洋風志向と憧れが反映されたのだろうと推測される。
 部屋の壁には何枚か同じ女を描いたと思われる油彩画が飾ってあるのだが、そのすべてが裸で、なんだかエロい部屋だね、とわたしが言うと男は恥ずかしそうに笑った。
 しばらくくつろいでいると、油彩画の女にそっくりな女が、濃紺のバスローブのようなものを羽織って現れた。油彩画の女と同様に、やっぱりどうも艶かしい。おそらくは壁の油彩画はこの女をモデルに描いたものなのだろう。
 聞いてみると、その女は「井上牧」という名前でポルノ女優をやっているそうだ。
 井上牧はわたしたち来客には目もくれず、部屋に入ってからまっすぐ男の傍に寄り、そのまま男の唇をぺろりと舐めた。
 客がいるにもかかわらず、井上牧は帰ってきた男を見てすぐ発情したらしく、男の鼻や瞼や耳を順に甘噛みしながら誘惑し始める。そしてバスローブはそっと指が触れただけではらはらと身体から落ちる。油彩画で見るよりほんのり色づいた胸が露わになる。
 男と井上牧は、わたしと女の子たちに構わずそのままその場でセックスを始めてしまった。
 無修正の本番である。
 わたしは目の前で繰り広げられる男と井上牧のセックスに軽く興奮しながらまた、それを恥ずかしそうにでもやっぱり見てしまう女の子たちの戸惑う表情にも興奮し、エロい部屋でのこのうえなくエロい状況を楽しんでいた。
 わたしは下半身を露出した男の股に裂けたような傷跡があるのを見つける。すでに治っているものだろうが、色づくその跡は男が上気すればするほど生々しく浮かびあがる。
 やがてセックスが終わって一息ついた男が、唐突にわたしに金を要求してきた。
 わたしが誤ってこぼしたコーヒーが男の股の傷跡にしみて足がいよいよ動かなくなったと因縁をふっかけてくる。
 わたしはコーヒーなどこぼしていないし、男は裸のまま堂々と足を踏ん張り仁王立ちしているし、言いがかりにもほどがあると断固拒否すると、男は裸の女が描かれた壺から拳銃を取り出して、言うことを聞けと再度脅しをかけてくる。
 怖がった女の子たちが逃げ出すと、駆け出した先の玄関に向けて男が発砲する。弾は玄関に置いてあったいくつかの花瓶に当たり、花瓶に描かれていた裸の女たちがひとり、またひとり、音をたててあたりに豪快に飛び散る。
 花瓶に挿してあった紅いカーネーションは、まるで裸の女の血しぶきのように玄関に舞い、ばらばらになった裸の女たちの身体の上に落ちた。
 それを見ながらわたしは、自分の置かれた立場よりも、もったいない、こんなことでこの男と女ははたして元が取れるのか、と男と井上牧のことを心配していた。
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