おねえさんといっしょ
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 こんな夢を見た。
 おかあさんといっしょで、いつもどおり笑顔で歌っていたはずの歌のおねえさんが、急に歌の途中で泣き出し、やがて号泣。その場に座り込んでしまった。歌うことも、踊ることもできない。
 歌のおねえさんは画面から姿を消し、一緒に歌って踊っていた歌のおにいさんと体操のおにいさんとパントマイムのおねえさんの三人が、歌のおねえさんの姿に動揺しながらも、おねえさんのパートをそれぞれ受け持つことで、なんとかその場を乗り切った。
 歌が終わってアニメのコーナーに移るものの、やむなくそれを途中で打ち切り、みんなで泣きじゃくる歌のおねえさんをなだめる。
 どうやらそろそろ降板になるらしく、その寂しさからたまらずに泣いてしまったようで、同じく卒業を間近に控え、その気持ちを共有している歌のおにいさんから、最後までがんばろうよ、と声をかけられている。パントマイムのおねえさんはしきりに大丈夫だよ、と背中をさすり、体操のおにいさんは歌のおにいさんの言葉をいちいち復唱して歌のおねえさんを励ましている。
 しかし歌のおねえさんはいっこうに泣きやまず、スタッフに連れられそのまま途中退場、残されたメンバーは一様に心配そうな表情をしている。スタッフも困惑した様子で右往左往し、すぐには再開できそうもない。
 ついさっきまで華やかだったスタジオはすっかり静まり返り、あちこちに影が落ちている。
 歌のおねえさんがいなくなり、取り残されたメンバーが途方に暮れるスタジオに、突如、郷ひろみのセクシー・ユーがけたたましく流れ出した。呆気にとられるメンバーの頬を殴打するように、打ち鳴らされるスティールパンが右に左に響き渡る。
 スタジオの照明がベースに合わせて赤に緑に点滅し始めると、スタジオの上手から歌のおねえさんの陽気な声が聞こえてくる。そしてかき鳴らされるギターにいざなわれるように、歌のおねえさんが再びスタジオに姿を現すのだが、おねえさんはスタッフが押す台車の上にうつ伏せで横たわり、ピチピチした艶のいいお尻が丸出しになっている。
 バスドラムが鳴るたびに、そのピチピチした艶のいいお尻はぷるぷると震え、光になまめき弾む。そして歌のおねえさんのご機嫌な歌声がよりいっそうスタジオ中に響く。腰にあてた手つきも悩ましい。台車を押すスタッフの足元も、ジャマイカあたりのステップで弾む。
 歌のおねえさんが陽気になればなるほど戸惑うメンバーを尻目に、ピチピチした艶のいいお尻を丸出しにしたおねえさんを乗せた台車はゆっくりとスタジオの中を進んでゆく。
 笑顔を取り戻した歌のおねえさんは、そうして陽気に歌を歌いながら、一度も停まることなく、ピチピチした艶のいいお尻を丸出しにしたまま、スタッフが押す台車で下手まで運ばれて行った。
 歌のおねえさんがスタジオからいなくなると、セクシー・ユーはフェイドアウトし、歌のおにいさんたちをそこに残したまますべての照明が落ちる。
 そこで番組は終了する。
 その収録現場にたまたま居合わせて、間近で歌のおねえさんのピチピチした艶のいいお尻を見ていたわたしは、興奮を隠し平静を装って、スタジオ内の溜まり場でくつろぐ歌のおにいさんに「大変でしたね」と声をかける。
 おにいさんは苦笑いを浮かべる。
 続けて「しばらくこういう感じが続くんですか」と問いかけるわたしに、歌のおにいさんは曖昧な返事しか返さない。
 体操のおにいさんもパントマイムのおねえさんもうつむいたまま、そっとしておいてくれ、とでも言うようにわたしから目を逸らした。
 スタジオの中は、歌のおにいさんのため息を残して、もう物音ひとつしない。
 わたしは「おつかれさまでした」とあいさつしてその場を離れながら、今日の放送をもう少し高画質で録画しておけばよかった、と残念に思うのだった。
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