はたらくのりもの
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 こんな夢を見た。
 わたしはふたりのおばさんに殺されそうになる。
 寝たふりをしながら聞き耳をたてていた話が、どうやら聞いてはいけないことだったらしい。具体的にそれがどういう話であったのかを明かすことはできない。聞いて知ってしまっただけでも殺されなければならないような話だからさらにどんな危険が及ぶともわからない。わたしとしては何もそこまでしなくてもと思うのだが、それはあくまでもこちらの都合であってあちらにはあちらの都合がある。わたしはそれほどふたりの話を理解できているわけではないのだが、理解がどうということではなく、聞いたという事実が重いということらしい。
 ふたりのおばさんは、わたしにシーツを何枚も被せて殺そうとしてくる。息苦しいやら重いやら恐ろしいやらでわたしは混乱に陥る。それほどわたしのしてしまったことは重大だったということらしい。その後は何をどうくぐり抜けたのか覚えていないのだが、とにかく生き延びることに無我夢中だった。そして間一髪のところで助かる。
 わたしを襲ってきたおばさんのうちひとりは、それが理由かはわからないがその場で自殺してしまう。何重ものシーツの山の上に横たわるおばさんが、その血で赤く縁取られる。同じくふたりのおばさんに襲われていた緒形拳似の初老の男も、なんとか助かったようで足下で真っ赤に溶けていくおばさんをじっと見ている。
 わたしは自分の荷物をまとめて帰ろうとする。乗り物で帰ろうと思っているところに、迎えが来た。用意された車に乗り込む。わたしを待っていたのはビートたけしと井手らっきょのふたりだった。助手席のドアが開いたのでそこに乗り込もうとするのだが、後ろからビートたけしが無理やり押し入ってきて、わたしは運転席に追いやられる。どうやらわたしが運転しなければならないらしい。運転席は非常に座りづらく、それを微調整していると、急に車が動き出した。助手席でビートたけしがアクセルを踏んだらしい。しかしいくらも走らないうちにすぐに車は止まる。ふと車の外を見ると一軒家があり、その表札には「うんこ」と書いてある。もしやと思い、わたしはビートたけしに、これはあんたが用意したものか?と訊ねる。
 気を取り直して車をバックさせていると、新聞配達らしい自転車に乗った少年が後ろを通りかかる。ビートたけしが轢いちまえと連呼する。
 やがてたどり着いた先は映画の撮影現場らしい。車はいつの間にかむき出しの運転席だけが残されたようなひとり乗りの乗り物に変わっている。それを運転するわたしに北野武監督からあの画を残せという指示が飛んできてそのとおりいくつかの撮影をする。現場は量販店らしく、わたしは陳列棚ばかりを撮っている。
 ひとり乗りの乗り物を運転して建物の外に出ると、わたしの敵役らしい人物がクラシックカーで乗り付けてきた。主演俳優であるわたしは挨拶をされるのだが、その表情には何か含みがあるように見えた。不快とまでは言わないがいささか不安を覚える。屋根のない車を運転する様が軽薄に思える。
 エキストラらしい群集を見つける。エキストラは一様に赤い衣装を身にまとって全面ガラス張りの建物の中に集まっている。何やら落ち着かない様子で隣のビルを指差し騒いでいるようだった。わたしも気になって注目していると、突然大きな音を立ててそのビルが崩れ落ちた。と思ったのだが、実はそうではなく、壁であったところが壁ではなく天井であったところが天井ではなく、玄関のドアや照明や階段や手すりが元あった場所から大きく移動を始めていた。やがてそれが大型ロボットのようなものへの変形であったことがわかる。その大型ロボットのようなものが喋っているのか、もしくは動きに合わせてわたしがアテレコをしているのか、田原俊彦のモノマネをしているように見える。大きさと形の割に動きはスムーズで思いの外柔軟性もあり足が高く上がる。周りにあるいくつものビルがそれぞれ同じように大型ロボットのようなものに変形し、街を歩き出した。
 わたしは近くにいた出演者らしい女の子に、これはどういう映画なのか?と訊くのだが、ふたりとも知らないらしい。そもそも主演であるわたしですら知らないのだから無理もない。
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