暗殺と水の公園
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 こんな夢を見た。
 同窓会に来ている。しかしそこはわたしのクラスのものでもなければ学校のものでもない。学年はわたしと一緒くらいだと思うのだが見覚えのある顔はひとつもない。親しげに、そして懐かしげに話している参加者の雰囲気から同窓会だとわかるのだが、わたしの知っている同窓生はいないし、わたしに話しかけてくる同窓生もいない。
 大人になった彼らはそれぞれサラリーマン風の者もいればお腹の大きい妊婦もいればただ太っているだけの婦人もいれば和服を着た書道家風情もいれば学生時代の制服を着た者もいれば忍者もいればシルクハットに鳩を隠している者もいれば背中に子どもをおぶっている者もいれば左手のフックでスカートめくりをしている者もいる。ホームレスになってしまった同窓生もいて、それでも参加しようとする彼だけは周りより一段と見た目が老いてしまっている。
 自分たちでこしらえた食事を満足気に終えた彼らには何やらミッションがあるらしく、お互いに軽く目配せをしただけでそれぞれがそれぞれの配置に着き始める。その動きの簡潔さから、よほど綿密に計画され訓練されたものと思われる。もちろんわたしはその計画に含まれていない。
 漏れ聞いた話から判断するに、どうやらこのホテルにやってくる著名な学者先生を歓待するように見せかけて、暗殺を企てているらしい。それがどういう目的なのかまではわからない。わたしはウルトラQのテーマを口ずさみながらその緊迫した様子を観察している。もちろん観察しているだけで参加はしていない。知ってしまった以上緊張はしているが責任はないので気は楽だ。
 ドラマで見たことのあるふたり組をホテルの受付で見かける。ひとりはサングラスをかけた長髪の男でもうひとりはマスクをした短髪の女で、男のほうは「男の免税」と書かれた土産袋を持ち女のほうは「浅草」と書かれたおみやげ提灯を持っている。そうして観光客を装って何食わぬ顔をして歩いているが、きっとこのふたりが実行犯なんだろう。わたしの目は誤魔化せない。
 わたしはふたりに対し努めて意識しないよう心がけて、予め非常停止することがわかっているエレベーターに一緒に乗りこむ。エレベーターの中には他に一般客のカップルもおり、女のほうが「浅草」と書かれたおみやげ提灯に鳩は隠れているのかと小声で男に話しかけている。ふたりの実行犯に動揺は見られない。動き出したエレベーターは予定どおり途中で非常停止する。一般客カップルの男のほうが鳩が出ますよと叫ぶ。わたしは予備知識どおり複数のボタンを同時押しして脱出を試みる。
 エレベーターを降りたわたしの腕に絡みついているものがあることに気づく。それは女性の腕で、どうやら先のエレベーターで一緒だったうえにわたしの恋人らしく、静かにわたしと降りてついて来たらしい。せっかくだからと、そのままわたしたちはホテルを後にしてデートにでかける。
 わたしと彼女はあちこちから水が湧き出ている公園の中を歩いている。そこには堀を泳ぐ鮎を釣る人や鳥を釣る人がいて、彼らは見世物を兼ねた商売として釣りをしているらしく、そのまわりには見物人が集まっている。大道芸人のようにジャグリングをする者もいれば水たまりの中で瞑想するふんどし姿の者もいればエプロン姿で演説する者もいれば忍者もいればリストラされたことを愚痴るスーツ姿の者もいれば四畳半くらいのスペースに人口的に作られた粗末な池と島で商売をする者もいる。今さっき窮屈なところから抜け出たような鳩が空に向けて飛び立つ。
 わたしはそれらの光景にすっかり夢中になっていたのだが、ふと気がつくとバケツを持っていて、その中には泥にまみれた貝の様なものが入っている。どうやらその泥にまみれた貝の様なものはわたしの恋人である彼女らしい。声をかけても泥にまみれた貝の様なものは何も応えない。バケツの中の水がなくなりつつあり、もしかしてこれが原因なのかもしれないと、わたしは彼女を救うために必死で水道を探す。
 やっとのことで見つけた水道の水で、泥にまみれた貝の様なものについた泥を落として綺麗にしてあげると、それは実は貝の様なものではなく、お餅の様なものであることがわかる。わたしは両掌に重く乗るくらいのそこそこ大きなお餅の様なものからさらに丁寧に泥を落とす。
 泥も落ちて綺麗になったお餅の様なものを目の前にして、わからなくなったことがある。このお餅の様なものはわたしの恋人である彼女なのか、わたしの恋人である彼女だったのか。声をかけても相変わらず何も応えない。
 わたしはそのお餅の様なものを食べようかどうするか悩んでいる。
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