戦争の都
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 こんな夢を見た。
 1995年12月―上野。
「痛いよー。痛いよー」
子供たちが泣きながら保健室へ運ばれていく。

 1995年、日本は災難続きだった。阪神大震災、オウムの反乱、金融破たん。。。 その波乱の年も終わりを迎えようとしているそのときに、さらに最悪の事件が起きようとしていた。

 体育館では、今まさに第三次世界大戦が始まろうとしていた。
 アジア各国の将軍たちが集まっている。異様で重苦しい空気が立ち込める中、天井からは二本のロープがゆらゆらと垂れ下がっている。 下では二人の将軍が緊張の面持ちでそれを握って睨み合っている。
「日本対ロシア、始め!」
その声の響きが聞こえなくなるより先に、二人の将軍は勢いよくロープを上へ上へと上り出した。 5mほどもあるそのロープを上るのに、ものの30秒もかからなかっただろうか。日本軍の将軍が先に天井まで上り詰めた。すると、国籍は分からないが大観衆の歓声が響き渡り、体育館を震わせた。
 わたしが体育館を出て駅前まで行くと、群集の中に大西、中島、夏加、渡辺の四人が待っていた。
「じゃあ初日の出見に行こう!」
とこれからの目的が決まったところで、群衆がにわかに騒がしくなった。 彼らは空を見ている。五人も空を見た。
 雲もなくどこまでも青い空を、ミサイルがトビウオのように飛んでいる。音もなく、静かに、速く。
 ミサイルが発射されたと思われるところを五人が見てみると、どんよりと重い緑色をした戦車が静かに佇んでいた。 空も景色もこんなに明るいのに、そこだけは黒い靄に包まれたように薄暗かった。戦車はなおも音を立てずにミサイルを撃ち続ける。ミサイルが飛んでいく方向には、煉瓦造りの高い建物がいくつか並んでいた。
 戦車がミサイルを撃つ度に、群集は歓声をあげた。大西と夏加は写真を撮っている。 わたしは鞄の中のカメラを探している。その間も戦車は休むことなくミサイルを撃ち続ける。ようやくカメラを見つけて写真を撮ろうとしたとき、それを待ってたかのように砲撃は終了した。
 群集の興奮が冷めた頃、五人は図書館の前に来ていた。わたしだけが図書館の中に入っていく。そこには小さな子供に母乳をやる醜い顔をした母親が何人かいた。それを意識なく見ているくたびれた男たちがいる。
 わたしは図書館の中を一周すると外へ出た。そして、深く深呼吸をした。
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